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引っ越し先を此処に決めた理由のひとつに浴槽の広さもあった。大人ふたりが入っても足が伸ばせる広さは魅力的だった。
「はぁ~~~いい湯だ」
「だねぇ」
いつものように重なるように湯船に浸かっていると不意に後ろにいる彼の両掌が私の頬をつねった。
「っ、にゃに?」
「先刻、何を考えていたの」
「へ?」
横に引っ張られていた頬を放され、私は彼の方に視線を向けた。
「お風呂に入る前、美兎ちゃん何か考えていたでしょう」
「あぁ……」
(相変わらず鋭いなぁ)
彼は私のことをよく見ているというのは随分前から知っていたけれど、その観察眼に時々恐れ戦くこともあったりする。
「何を考えていたの? また何か問題発生?」
「違うよ。ちょっとね……お父さんのことを考えていて」
「お義父さんのこと?」
私は彼に此処に引っ越して来るまでに父との間にあったことを思い出していたと話した。それを訊いて彼は「あぁ」と頷きながら苦笑した。
「そうだったね。いきなり新築一戸建てのプレゼント発言には驚いた」
「でしょう? 考えることが普通じゃないのよ」
「そういえば俺の店を改築するって言った時もそうだったね」
「あぁ……そうだね」
彼の言葉につられてもうひとつ思い出したくもない父の普通ではない親馬鹿ぶりを思い出してしまった。
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