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「ということで芳香、一緒に保育士にならない?」
「──え」
その言葉に芳香は一瞬動きを止めた。恐らくそんなことを言われるとは思わなかったという感じの、解り易い静止だった。
そんな芳香に畳みかけるように続けた。
「芳香も子どもが出来たら傍で面倒見てみたいと思うでしょう?」
「それは……そうだけど」
「それに今の仕事、年齢を重ねる毎にきつくなって来るんじゃない?」
「……まぁ、若くて可愛い新人が増えて来て自然とわたしはお局的なポジジョンに追いやられて陰口叩かれているかもしれないけど」
「だよね。芳香がいくら努力してもどうにもならないことってあると思うんだよ。あ、だからといってそれが悪いとは思っていないよ? 芳香が今の仕事を生涯のものだって思うほどの想いがあるなら無理を言ったり誘ったりしない」
「……」
「ただね、心の何処かで違うことをしたいなって思う気持ちがあったなら、そういう機会を窺っているのだとしたなら私と一緒に勉強してみないかって話」
「……」
私の話を芳香は黙って訊いていた。その様子からして困惑しているとか嫌がっているようには見えなくて少しだけ安堵を覚えた。
「どう、かな」
私がそう促すと芳香は隣に座っていた明登くんの顔を見た。
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