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一日の営業を終え、誰もいなくなった店内の後片付けをしていると突然勢いよくドアが開いた。
「パパァー!」
甲高い声と共に疾風のように突撃して来た塊が俺の下半身に激突して来た。そのあまりにもな衝撃に一瞬よろめきかけたが、なんとか踏ん張りその小さな体を受け止めた。
「相変わらず弾丸のようだ」
「ふふふ、うれしい? ねつれつほうようよ」
「熱烈抱擁? またどこでそんな言葉を覚えたの」
「ママがいってた。よしかちゃんとはなしているのをきいちゃった」
「一体何の話をしているの、あの人たちは」
小さくため息をつくとすぐに『こらぁー結良ぁー』と遠くから聞こえた声が段々と近くなって来た。
そしてあっという間に店内に滑り込んで来たのは俺の愛おしい妻だ。
「飛び出したら危ないっていつも言ってるでしょう! 施錠する間くらい大人しく待っていられないの?!」
「だってぇーすぐにパパにあいたかったんだもん」
「そんなのはママだって同じなのよ! だけど我慢して我慢して堪えているっていうのに!」
「……」
(これももはや見慣れた光景だなぁ)
美兎ちゃんとの間に出来た娘の結良は5歳になっていた。
隣の保育ルームで保育士をしている美兎ちゃんは36歳になっても相変わらず高校生みたいな外見で、結良と言い合っているのを見ると母と娘というよりも姉と妹なんて錯覚を覚えることもたまにある。
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