1715人が本棚に入れています
本棚に追加
/221ページ
コポコポと温かい音と独特の芳ばしい香りが店内を漂っている。
「コーヒー飲む?」
「うーん……正直にいうとコーヒーって苦手」
「嫌いってこと?」
「嫌いじゃないけど……苦いから」
「だったらミルクと砂糖を入れればいいよ」
「え、いいの?」
「なんでそんなに驚くの」
「だって本当のコーヒー好きってミルクとか砂糖とか入れるの嫌がるでしょう?」
「それは好みの問題。コーヒーをどうやって飲もうとその人の自由だよ」
「へぇ」
「何」
「んーん。店長さんって意外と頭堅くないんだね」
「……」
「だってカフェをやっているくらいだから店長さんもてっきりそういうことには煩いのかなって思っていた」
「……」
「前に付き合っていた男でいたの。コーヒーに関して玄人ぶっている人が。その人がやたらと──」
「あのさ」
「ん?」
「店長さんって呼ぶの、止めない?」
「……え」
「俺たち、付き合っているんでしょ? だったらそれらしく呼び合おうよ」
「……いいの?」
「なんで悪いとか思うの?」
「だって店長さんは私と本気で付き合っている訳じゃないでしょう?」
「……」
「なのに店長さん以外の名前で呼んだら私、もっと勘違いしちゃうよ?」
「呼ぶ名前だけで変わっちゃうんだ」
「変わるよ、私的には」
「いいよ、名前で呼んで」
「!」
「昨日、自己紹介したよね」
「うん」
「俺は呼ぶよ『美兎ちゃん』って」
「!!」
「あ、歳上にちゃん付けは失礼かな。どうしても見た目が幼いと」
「いいよ、ちゃん付けで」
「そう? じゃあ、美兎ちゃん」
「~~~」
「俺のことはなんて呼んでくれるの?」
「……悠真、くん」
「くん付けなの?」
「呼び捨て、恥ずかしいから」
「そっか」
私が呼んだ名前を受けて彼は目を細めた。
最初のコメントを投稿しよう!