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「そういえばどうしてこのお店、飲み物だけなの?」
「どうしてって、俺が店を継ぐ前からそういう営業スタイルだったから」
「継ぐって……元は悠真くんのお父さんが経営していたの?」
「違うよ。元々は俺、この店でアルバイトしていて元の店長が随分歳いった人でね。病気で入院することになったのを機にこの店を任されたんだ」
「そうなんだ……。で、その前の店長さんは」
「一年前に亡くなった」
「……」
「余命宣告されていたし他に頼る身内もいなかったから俺が最後看取ったんだ」
「……」
何をいえばいいのか分からなくてカウンターに置かれていた彼の手をそっと握った。
「あぁ、大丈夫だよ。一年経ったし本当の身内って訳でもないし」
「それでも!」
「え」
「……」
彼が何を言いたかったのか、私が何を言うべきたっだのか──そういうのは分からなかったけれど、握った私の手を彼が握り返してくれただけで何となく気持ちが通じたような気がした。
「まぁ、俺が忙しいのが嫌だっていうところがあるのかな。飲み物出すだけで精いっぱい」
「……」
「来店したお客のイメージでカップを出すってアイデアが口コミで評判になってそこそこ客足もあるし……まぁ、俺ひとりで店を継続する分には何も問題ないって感じ」
「……そっか」
『俺ひとり』という言葉が心に鈍く刺さった気がしたけれどそのまま受け流した。
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