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「我がまま言ってごめんね。今日はこれで帰ろうか」
「!」
そんな言葉を受けた瞬間、私の中では答えが決まった。
芳香との約束が先だったからそれは優先されるべきなのだ──と。
「美兎、お待たせ~」
行きつけの居酒屋に約束の時間三分遅れで芳香がやって来た。
「ごめんね、ちょっと遅れちゃった」
「あ、いいの。それよりも……」
「ん? どした──ってか、まさか昨日の今日で出来立ての彼氏と別れたとか言うんじゃないでしょうね」
「えっ、違うよ。そんな訳ないじゃない」
「はは、まぁそうだよね。いくら美兎でも付き合って一日で別れたって記録は出していないもんね」
「あ~~~そういう話じゃなくてね」
到着早々マシンガントークの如くまくしたてる芳香に隙はない。
「何よぅ、言いたいことがあるならサッサと言っちゃいなさいよ」
「だからね」
話そうとした瞬間、メニューを手にしていた芳香の動きが止まった。
「美兎ちゃん、ごめんね。思ったよりトイレ込んでいて──あ、お友だち来ていたんだ」
私の隣にごく自然に座った彼を見た芳香は固まっていた。
「あ、あのね、芳香。こちら昨日からお付き合いしている泉澤悠真さん」
「初めまして、泉澤です」
「……」
「おーい、芳香?」
未だに固まっている芳香を心配して少し揺さぶってみた。
「! 嘘っ、なんで連れて来てるの?!」
ようやく融解して発した芳香の言葉がそれだった。
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