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(私があれこれ考えていることを知っていたんだな)
薄々考えていたことだったけれど期待を裏切らない通りの性格で思わず苦笑いしてしまった。
(やっぱり悠真くんの方が上手かな)
そんなことですら嬉しいと思ってしまう私はまんまと彼の思惑にハマっている。
「美兎ちゃん」
考え事をしながらモップをかけていた私の傍にいつの間にか立っていた彼がいきなりチュッとキスした。
「!」
「掃除、手伝ってくれてありがとう」
「……」
「それと俺、初めて会った日よりも、昨日よりも、今日の方が君のことを好ましく思っているよ」
「……」
「さぁ、サッサと片付けて帰ろうか」
「……うん」
一瞬頭が真っ白になった。この人は突然何をしでかすのか! ──と。
(キス……した)
不意打ちのキスを。
そんな、まるで恋している者同士が交わす甘い行為を今、さりげなく私にしたのだ。
(これって……これって喜んでいいこと?!)
『それと俺、初めて会った日よりも、昨日よりも、今日の方が君のことを好ましく思っているよ』
その言葉も本心だと思いたい。もう決して理詰めで姑息な駆け引きはしないと決めているから。
(ただ悠真くんの言葉を信じるだけ)
好きで手伝っていただけの私に思いがけなくもたらされたご褒美にこの上ない幸せを感じてしまった。
例えこの行為が彼の何らかの計算の上でなされたことだったとしても、そんな罠にハマってまでも本望だと思ってしまったのだった。
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