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「私、どうしてもこのお店で働きたいんです! だから──」
「どうして?」
「え」
「どうしてうちなんかで働きたいと思ったんですか」
「あ……あの、それ、は……」
彼の質問は至極当然のものだ。特に求人している訳でもないのに今日、たまたま店に来た女がいきなり働かせてくれと言ったところですんなり了解する方がおかしいだろう。
でも、それでも私は──
「店長さんを好きになったからです!」
嘘をついても仕方がない。ここは正攻法で行く。
「……」
私の告白を訊いた店長さんは呆気に取られていたけれど、大した動揺を見せずに「ここじゃなんだから」と店内に入るように促した。
(流石……告白なんて慣れているって感じ)
ある種、自分にも身に覚えのあることでその態度に大した落胆はなかった。
カウンター席に案内されて座った私に店長さんはミルクティーを出してくれた。
「……ミルクティー」
(本日五杯目の~~~)
「好きなんでしょう? 四杯も飲んだくらいに」
「!」
その言葉にハッとした。
「あの、それって」
「思い出した。君、フラれていた子だ」
「……ぁ」
今しがたまで忘れてしまっていたことを思い出された。
(そうだ、私、今日フラれたんだった)
「彼氏にフラれたその日のうちに違う男に告白するなんて凄いね」
その時初めてにこやかな顔でも驚いた顔でもない、何ともいえない皮肉めいた表情をした店長さんを見た。
「た、確かにフラれましたけど……でも私は別に好きでもなかったっていうか、告白されたから付き合っていただけの人で……だから別になんとも──」
「泣きそうな顔していたくせに」
「!」
ふいに目元を押された。店長さんの親指の腹が私の目元をまるで涙を拭うような仕草でスライドさせた。
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