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呼ばれた方を振り向くと其処にはよく知った顔があった。
「今から帰るのか? ひとりで」
「ひとりだよ、悪い?」
「いやいや、全然悪くないけどさ、よかったら一緒に飯でも食いに行かないか?」
「は? 私と? なんの冗談」
「冗談じゃない。頼むよ、今モーレツに寂しいんだよ~~」
「……」
声を掛けて来たのは同期の武藤新二だった。
入社したばかりの頃、ほんの二か月ほど付き合ったことがあった遥か昔の元カレで、私と別れた後、同じく同期入社していた井上七海と付き合い五年前に結婚していた。
「へぇ、二人目出来ていたんだ」
「そうなんだよ。んで息子連れて里帰り中。折角のマイホームも今はオレひとりで帰っても寂しいだけなんだよ」
「幸せそうだね、あんたたち」
「おう、夫婦円満で子宝にも恵まれてしまってごめん」
「誰に謝ってんのよ」
「はははっ」
新二と結婚した七海は寿退社していた。それから七海とはすっかり交流はなかったけれど、新二とは別れた後も後腐れもなく社内で会えば言葉を交わしていた。
そんな新二の『寂しいんだよ』という言葉に絆されつい一緒に食事を摂ることになった。
新二に連れられ入った定食屋は結構な人でごった返していた。
「相変わらず寂しがりなんだね」
「美兎だってそうだろう? お互い様だ」
「……」
そう、私たちはお互い寂しがり屋で束縛のし過ぎが原因で別れた。
その当時は私も若くてベッタリ甘えることがいい彼女なんだと思い込んでいたために新二の寂しさからの束縛を全て受け入れていた。
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