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お店の後片付けを終え、ふたり揃ってお店を出たその瞬間──
「悠真!」
いきなり聞こえた声に私たちは驚き固まってしまった。
叫ばれた声の方を向くと其処には派手な格好をした綺麗な人が仁王立ちしていた。
「悠真、待っていたわ」
「……」
(名前呼びということは元カノ、かな)
彼が選びそうな見た目のいい若い女性だ。
「あたし……あたしやっぱり悠真じゃなきゃダメなの。それがよく分かったから、だから──」
彼女がすがるように伸ばした手は彼の腕に届く寸ででパンッと叩かれた。
それを呆気に取られながら見つめているといきなり私の体が力強く彼の元に引き寄せられた。
「見て分からない? 俺には彼女がいるんだけど」
「!」
頭上で聞こえた声は今までに聞いたことの無い、低く唸るようなものだった。
(悠真くん、怒っている?)
「そんな……だってあれからまだ数日しか経ってない! 別れ話をしたのはあたしのほんの気まぐれで──」
「聞こえなかった? 彼女が、いるんだよ」
「っ!」
掴まれていた肩にグッと力が入ったのを感じ一瞬顔をしかめた。
(本気で怒っている)
こんな面があったことに驚いていると彼のそのただならぬ気迫に押されたのか目の前の彼女は蒼い顔になりながらその場から走り去って行った。
「……はぁ、まいる。本当」
長く息を吐きながら呟いた彼の言葉は何ともいえない感情を孕んでいるように思えた。
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