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「そういうの俺、嫌いだ」
「ゆ、勇人……」
「どうしちまったんだよお前。もしかして鬼塚から何か弱みでも握られてんじゃ」
「違う。俺は鬼塚君が好きだから一緒にいるんだ。だから勝手に勘違いして、鬼塚君の悪口を言うのは止めてくれないか」
静かな空気が、俺と男子生徒三人の背筋を冷やす。
冷静なって思う。
俺は、どうしてこんなことを言ってしまったんだと。
これはただの恋愛ゲーム。
俺に興味が無い鬼塚を惚れさせる為だけの、ただの暇つぶし。
だからここまで本気になる必要はないんだ。
今まで積み上げてきた完璧な俺を壊してまで頑張る事じゃないんんだ。
なんなら鬼塚攻略を諦めて、俺を待つ三人の元へ戻れば、それで解決する話だったはずなのに。何故か俺は突然湧き上がった怒りに任せ、とんでもないことを口走ってしまった。
このままじゃ、俺という完璧な存在が消えてしまう。
「あ、えっと……今のは」
でも、今更どう取り繕えば……。
「はぁ~~……」
背後からの大きな溜息は、先ほどまでのピリピリした空気を吹き飛ばし。一瞬で視線を俺から自分の方へと集める。
「鬼塚君」
いつの間にか立ち上がって、頭を掻きながら眠そうに欠伸をする鬼塚だが。俺には分かる。
どうでもいい。俺には関係ない。そう見せるように演技している。
「なぁ、俺は寝たいんだ。喧嘩なら他所でやれよ」
「なっ!だ、だいたいお前が、勇人を連れ回さなければ!」
「だから!それは……俺が勝手に……」
「言っただろ?神上勇人」
その時。
俺から視線を外した鬼塚の目が、ゆっくりと沈む。
「失せろ。ってな?」
まるで、なにもかもを諦めてしまったような。そんな寂しい目を俺に向けることも無く。鬼塚はただ立ち尽くす俺を置いて、屋上から出ていってしまった。
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