だから私は 空を見上げる

　今日も空を見上げてみる。
　空を見上げる、をするための手順はもう覚えた。

　一つ、顔を真上に上げる（うがいをする時の感じ）
　二つ、目をじーっとこらす（もちろん瞬きはしてもよい）
　三つ、リアクションタイム
　　　（深呼吸したり、叫んでみたり、歌を歌ったり、何もしなかったり）
　四つ、首が疲れたり、飽きたら終了

　妹の理恵子が教えてくれたそれは、様になるまで結構な試行錯誤があったけれど、おかげさまで、今ではすっかりそれらしく見える（らしい）。

　それでも、やっぱりわからないことがある。
　空の色だ。
　青い、とみんな言うけれど、青が分からない。隣の席の秋田君は後天性だから、色を知ってる。でも私は先天性。だから、色は全く分からない。

　第一、今、目の前のこの色が何色なのかも分からない。

　大半の人が知ったように「黒」っていうけど、時々違う風だよ、というと、途端にみんな黙ってしまう。

　そういえば幼い頃、よく理恵子やお母さんに、色を味で教えてってお願いしたものだっけ。私はずいぶん、みんなを困らせた。ううん、今だって、困らせている。

　さっき、ニュースで聞いた。

――五年ぶりの大流行です。