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★ヴィンセント
戦の気運が高まっている。それを聞いたヴィンセントは忙しい仕事を放り投げて家へ戻った。真っ先にやらねばならない事があるのだ。
「アネット、荷を纏めてくれ……て、何をしているんだ?」
帰って早々に出迎えたアネットは家の者も一緒にあれこれと物品を取りだし、武器を磨いたりしている。そのお腹はドレスを押し上げ、ふっくらとした丸みがある。
「あぁ、お帰りなさい。何って、戦支度よ。日中、部下の人が知らせに来てくれたから」
「戦支度って……君はそんな事をしている場合ではない。部下数人をつけるから、安全な場所に行くんだ」
彼女のお腹には子がいる。今で四ヶ月、安定してきているとはいえ、油断はできない。だからこそ逃がそうと帰ってくれば、随分勇ましい様子だ。
だがアネットは聞く様子がない。備蓄の事や女性達でも戦えるようにと抗う姿勢を見せている。
「アネット!」
「嫌よ」
「頼むから、言う事を聞いてくれ。君に何かあれば私は苦しくてたまらない。後半年もすればその子が生まれるんだよ? 王都が戦火に巻き込まれてしまえば、安全なお産もできないだろ」
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