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声に反応したアネットが目を丸くする。そこには相変わらず身綺麗にしたシルヴィア・ヒッテルスバッハ夫人がクスクスと笑って立っていた。
「さぁ、行きますよ。二人ほど医者も同行させたから安心して。本当はハムレットがよかったんだけど、あの子もなんだか思い詰めていてここに残るってきかなくって。ほら、変人だけど医者としての腕は確かだから」
「あの、小母様! 私ここに……」
「駄目よ」
有無を言わせぬ声に、アネットはビクリと震える。流石社交界を仕切る女夫人だ、その言葉も声も表情も、優雅でありながら凄みが違う。
「アネットちゃん、女にできる戦いをしなければ」
「女の、戦い?」
「中にいては助けられない事も、外ならできる。資金が足りないなら、稼ぎ出せばいい。食べ物が足りないなら調達するわよ。王都の混乱で入れない他国の商人は出てくる。そういうものを取り込み、搾り取るの。例え王都が混乱しようとも、地方がそれを支えれば復旧も早いわ。その為の事をするのよ」
毒の花とは、いったものだ。艶やかな笑みは美しい。だが、その奥に過分な毒を含んでいる。彼女が言う事は簡単ではない。だが、できるとなれば助かる。地方が力をため込み、それを王都に送ってくれる。多少苦しくとも、持ち堪える力になる。
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