開戦を前に(ファウスト)

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「それに、貴方の一番なすべき事はお腹の子を無事に産む事。終わった後、旦那様に元気な子を抱かせてあげる事よ。血を繋ぐ事は女にしかできないわ。だからこそ、その命には大事な意味があるのよ」  自身の体を見下ろして、アネットはそっと腹を撫でる。その手に、ヴィンセントも重ねた。 「私の生きる力になる。諦めない力になる。この子を生きてこの腕に抱くために、私は決して諦めはしない」 「ヴィンセント……」 「だから、行ってくれ。余裕があれば手紙を出す。離れても、日々君を思っている」  家の者達も静かに頷いている。それを見て、アネットはグッと拳を握った。 「少しだけ待ってください。準備します」 「えぇ、ゆっくりでいいわ」  自室へと向かった彼女の背中を見て、ヴィンセントもようやく息をついた。その隣りに、シルヴィアが並んで真剣な目をしている。 「ヒッテルスバッハの領地に匿うわ。大丈夫、牧歌的な所よ。産婆もいるから安心なさい」 「何から何まで、申し訳ありません」 「いいのよ、アネットちゃんは私の娘みたいなものだもの」  そう言って笑ったシルヴィアに、ヴィンセントは頭が上がらないままだ。 「あの人もこっちに残るわ。アレクシスと婚約者は連れていく。何かあればハムレットを訪ねなさい。あの子、王都から離れないみたいだから」 「わかりました」     
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