342人が本棚に入れています
本棚に追加
★オリヴァー
先行した第一師団とファウストから遅れて翌朝、オリヴァーは第四師団を二班に分けて準備を始めていた。今日の昼にはここを発ち、手前のバロッサにて拠点を構える。丁度王都と国境の中間にある港町であり、物資輸送に適している為だ。
昨夜は少し眠れなかった。行軍と言っても今まで眠れないなんて事はなかったのに、胸を不安が埋め尽くして寝付けなかったのだ。
そうしていると、不意に来客を伝えられる。この忙しいのに一体誰がと、半ば怒りさえ感じながら応接室へと入ったオリヴァーは、そこにいる人を見て途端に動けなくなった。
「すまない、忙しいとは思ったんだが……どうしても、会っておきたくて」
「アレックス……」
彼の顔を見ただけで、ふつりと緊張の糸が切れた。不安に押し流されそうな心が折れて、涙がこぼれ落ちて止まらなくなる。
そっと近づいたアレックスの腕の中は温かく、力強い。背に回った腕の確かさを、体の全てで感じている。
「不安だったんだな」
「こんな事、初めてで……」
「今までは不安はなかったのかい?」
「ありません。こんな……離れる事が苦しいなんて」
最初のコメントを投稿しよう!