342人が本棚に入れています
本棚に追加
知ってしまった。今苦しいのは紛れもなく、幸せだからだ。得る事はないと思っていた伴侶がいて、大切な場所があって離れがたい。初めて自分の命の重さを感じている。死ぬ事があるという恐怖を感じている。
優しい腕は甘やかす。不安を埋めるように寄り添っている。ジワジワと熱が染みて、オリヴァーはただただ泣いていた。
「オリヴァー、一つ君に伝えずにしてしまった事があるんだが。許してもらえるだろうか?」
「なん、ですか?」
不意に甘く問われて顔を上げた。少しだけ申し訳なさそうな表情をしたアレックスは、だがしっかりと伝えてきた。
「シウス殿にお願いして、君の身元引き受けを申し出てきた」
「……え?」
「本来は家族でなければならないそうだが、シウス殿が身元を保証してくれたのでね。後日、君の母君にも同意の書類をもらえば正式に受理される」
「それ、は……」
身元の引き受け。それは、もし万が一死んだ時に、遺体を誰が引き取るかを指定するものだ。誰もいなければ騎士団の墓に合葬される。
オリヴァーも合葬のつもりでいた。今更家族の墓には入りたくなかったから。でも……
「君に何があっても、側にいる。俺達は夫婦なんだから、同じ墓で構わないだろ?」
「それは、でも……本当に?」
最初のコメントを投稿しよう!