開戦を前に(ファウスト)

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 知ってしまった。今苦しいのは紛れもなく、幸せだからだ。得る事はないと思っていた伴侶がいて、大切な場所があって離れがたい。初めて自分の命の重さを感じている。死ぬ事があるという恐怖を感じている。  優しい腕は甘やかす。不安を埋めるように寄り添っている。ジワジワと熱が染みて、オリヴァーはただただ泣いていた。 「オリヴァー、一つ君に伝えずにしてしまった事があるんだが。許してもらえるだろうか?」 「なん、ですか?」  不意に甘く問われて顔を上げた。少しだけ申し訳なさそうな表情をしたアレックスは、だがしっかりと伝えてきた。 「シウス殿にお願いして、君の身元引き受けを申し出てきた」 「……え?」 「本来は家族でなければならないそうだが、シウス殿が身元を保証してくれたのでね。後日、君の母君にも同意の書類をもらえば正式に受理される」 「それ、は……」  身元の引き受け。それは、もし万が一死んだ時に、遺体を誰が引き取るかを指定するものだ。誰もいなければ騎士団の墓に合葬される。  オリヴァーも合葬のつもりでいた。今更家族の墓には入りたくなかったから。でも…… 「君に何があっても、側にいる。俺達は夫婦なんだから、同じ墓で構わないだろ?」 「それは、でも……本当に?」     
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