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★チェルル
一日、お世話になることになった。チェルルは今、ドゥエインの案内で店の二階に上がってきた。会わせたい人物がいると言われたが、ドゥエインの表情はどこか晴れずにいる。
部屋をノックしても、返事はない。それでも構わず開けた先、風の通るベッドの上にその人はいた。
肩辺りまでの、白に紫の混ざったような独特の髪色をした、五十代と思われる人をチェルルは知っている。散々お世話になった、大切な恩人だ。
けれどその姿は見るも無惨と言えた。痩せ細った体はとても細く見える。そして、目を覆うように包帯が巻かれていた。
「二年前の時に、やられたんだ。両目とも潰されてな……もう、長くないかもしれん」
「そんな!」
「チェルル?」
声に反応したのか、見えないだろう顔が戸口へと向けられる。随分、声も変わった気がした。それでも昔と同じ、柔らかな音は含んでいた。
「ローマン様……」
「本当に、チェルルなのですか?」
少し、嬉しそうな声。それに反応して、チェルルは駆け出して手に触れた。
骨と皮、そんな印象を受ける手を握って、涙が出た。この地に来られなかった間に、故郷の大切な者はドンドン奪われてしまっていた。
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