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「泣かないんだよ、チェルル」
「ローマン様」
「少し、ふっくらとしたかい? ちゃんと、食べられているんだね」
「あ……」
穏やかな笑みを作る口元、柔らかな声。故郷を捨てたと……育ての恩人を捨てたも同じなのに、今もまだこんな顔で迎えてくれる。
「随分、長い旅をしたみたいだね」
「ごめんなさい……」
「何を謝るんだい? 何も気にする事はない。お前は若いんだ、沢山を知るのはいい事だよ」
「ごめん、なさい……」
言い訳できないような、とんでもない事をしていた五年だった。恥ばかりの五年だった。恩のある人に、なんて言えばいいのか。
ふと肩に触れたドゥエインが、首を横に振る。何も言うなというように。
「レーティスは、元気ですか?」
言えない。だから、頑張った。見えない事をいいことに、涙を流したまま嘘をついた。
「元気に、しています」
「他は?」
「みんな! ダンクラート隊長なんて相変わらず煩いし、キフラスお堅いしで。ハクインとリオガンも、とても元気ですよ」
「ベリアンスは?」
「勿論、相変わらずの冷静沈着っぷりです」
声は震えなかった。その分、心が震えた。嘘が苦しくて、窒息しそうだった。
「そうですか」
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