近況(フェオドール)

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「残念ながら。かなり用心深い人物で、似せ絵はおろか名前すらも隠し、移動の際には頭から頭巾を被って顔を見られないようにしているとのことです。薄気味悪いと、住民も話していたと聞きました」 「暗殺回避、もしくは自由に動くためと考えるなら賢いな。だが、面倒だ」  クラウルは腕を組み、項垂れる。こんな顔を見たことがないから、深刻なんだと分かった。 「騎士団の者達はどうやってジェームダルに入ると言っていた?」  ファウストからの質問に、フェオドールは困った顔で首を横に振る。これは本当に、秘密になっていて分からなかった。 「詳しくは語られませんでした。状況が良ければ旅の傭兵と思っていたようですが、疑われない為にもう一段階安全な方法を取ると話していたそうです」 「具体的には分からないか」 「残念ながら。ただ、商隊の荷に彼らの荷物も紛れ込ませていました。中身は身なりのいい男性服がいくつかですが、他は女性物のドレスやカツラ、化粧品だそうです」 「……はぁ?」  思わず素っ頓狂な声を上げるファウストの目が丸くなる。これはクラウルも同じだ。  正直に言えば、フェオドールもこんなもの、何に使うのかと疑ったのだ。  だが、シウスは何か物知り顔で頷いている。どうやら何か思い当たるらしい。 「確か、ラン・カレイユから子供や女性を攫い、ジェームダル教会で奴隷取引をしているのだったな」 「なにそれ!」     
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