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「今回はちょっと忙しくて、俺だけだけどさ。今後は皆で帰ってきます」
「楽しみですね」
そう笑った人の手に手を重ねて、チェルルは必死に笑っていた。
部屋を出て、一階に。そこで、チェルルは我慢できずに泣き崩れた。ドゥエインが抱きとめて、子供の頃みたいに頭を撫でてくる。その手がとても温かく感じた。
ローマンの手は、冷たく感じた。先がないという言葉が、そのまま納得できる状態だった。
「悪いな、嘘つかせちまって」
「どうして……」
「町を守るのに、戦った。町の人間を逃がすのに戦って、目と、体も病んだんだ」
「なんで!!」
「真っ当な医者なんてない。それでも命を取り留めたのは奇跡だ。ただ……腹に大きくもらって、そのせいで胃の半分が駄目になった。食えなくなってきてるんだ」
「うっ……ふぅ……っ」
理不尽だ。もしもその時にエリオットのような医師がいれば……ハムレットのような医師がいればきっと結果は変わった。彼らは一流で、金の有無で治療の手を緩めない。ランバートだって酷い怪我をしていたし、レーティスだって……
これが、国の違いだ。帝国では助かった命が、この国じゃ助からない。どんな階級のどんな人でも手を差し伸べる帝国とは違って、この国じゃ貧乏人の命は使い捨てにされる。
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