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「帝国ならこんな事にならなかった。先生ならきっと助けてくれた。なのに! なのに……」
隣でランバートが、なんとも言えない悲しい顔をしている。わかっている、こんな事を彼に言ってもどうにもならないし、彼には何の責もないんだ。
でも、出てしまったものを引っ込める術を知らないんだ。
「理不尽だよ、こんなの……」
「……帝国だって、最初から今みたいな形だったわけじゃないさ。スラムの時代、沢山の人が玩具にされて虐待死した。それを、上は見て見ぬ振りをしていた」
「……知ってる」
「それを変えたのが、カール陛下だ。国は、上に立つ人間によって変わる。良くも、悪くも。だからこそ、助け出すんだろ?」
問われて、思い出す。アルブレヒトの側にはずっと、笑顔があった。平民と同じ目線で、同じように笑う人。あの人の周囲は常に明るくて、優しくて。
思いだしたらまた、ポロポロと涙がこぼれた。その頭をポンポンと、ランバートは撫でてくれている。
「大丈夫、頑張ろう。その為にきたんだからな」
「うっ……うん……」
「チェルルって、案外泣き虫だな」
「煩いなぁ……あんた達が涙腺緩めるんだよ」
でも、今の涙は温かい。少なくとも、心の中にあるモヤモヤが押し出されていくのだから。
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