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「ほんの少しでもいいのです。お願いします、アルブレヒト様」
泣きそうになる。この体はもう無理なんだと、言われているみたいだ。食べずに持ちこたえるなんて、無理な話だ。
「ラダ、泣かないで……」
熱い手が優しく頬を撫でる。優しい瞳が、自嘲気味に見つめている。
「すみません、もう少し頑張れると思っていたのですが……無理そうです」
「そんな! そんな事ありません!」
そんな事は聞きたくない。ラダは嫌々と首を横に振り、手を握り絞めた。
ラダは家族を知らない。ずっと、酷い生活をしていた。泥水を啜るような生活をしていて、誰からも愛情を注いでももらえず、優しさも知らなかった。
このまま、死ぬのだと思っていた。それが、アルブレヒトに出会って変わったのだ。
アルブレヒトは穏やかで、綺麗で、とても沢山の話しをしてくれた。柔らかく微笑み、頭を撫でてくれて、「貴方は大切な子ですよ」と言ってくれた。
優しさを、強さを、大切なものを教えてくれた人だ。
「よく聞きなさい、ラダ。私はきっと、そう長くない」
「アルブレヒト様!」
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