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「この魂が、そのようなものです。私は、長く生きられない。だから、聞きなさい。私が死ぬ前に、貴方はここを逃げなさい。ここに居てはいけない。貴方は長生きできます、幸せになってください」
優しい手が、頬を滑る。熱い息を吐き、細くなった手で……それでも愛おしそうに撫でるのだ。
どうして神様は側にいるのに、この人を救ってくれないの。沢山の人を救うのに、この人を救ってくれないの? この人は沢山の人を救っているのに、その分苦しみを背負うなんて……こんなの間違っている。
「ラダ、お願いです。貴方の未来は明るい。とても、長生きをします。沢山の子や、孫に囲まれて微笑んでいます」
「アルブレヒト様を置いて、無理です……」
「気に、病まないで。これが、私という存在なのですから」
そう呟いたアルブレヒトが、ベッドに倒れる。熱がまた上がっている。体を冷やしても楽になってくれない。
「あ……お医者、様……!」
助けて欲しくて走り出そうとした。その手を、不意に強い力で掴まれて振り向いた。深い紫色の瞳がしっかりと開いている。熱に肌は上気していても、そこには満ちる生気を感じる。何より、今のアルブレヒトにこんな力は出ない。
「神、様?」
「娘、聞きなさい」
静かな声だが、有無を言わせない。跪きたくなる声にラダは震えた。
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