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せんせい
先生は、ずるい。
私の気持ちを知っているのに、無視してる。
毎日こうして眺めているのに、視線を流すことすらしてくれない。
先生が書く、黒板の文字は四角くて、まるでブロックが並んでいるようだ。
長い睫毛が臥せられている瞬間がとても好きなこと、きっと知らないだろうなぁ、と思いながらため息をついた。
今日は曇り空で、校庭をふと見てみるとぽつぽつと雨が降りだしていた。体育の授業中の生徒が、塊で走っていくのが見えた。
「降りだした」
隣の席の、玉崎が呟いた。
うん、と私は言って、それからまた先生を見つめた。
先生の書く数字が、綺麗に並んでいるのにみとれながら。
「もう、帰んの」
放課後、玉崎が話しかけてきた。
「ううん」
「なんで」
う~ん、と私は唸った。
「帰ろうぜ、一緒に」
誘う相手が違うでしょ、と私は言った。
こいつは彼女がいるんだ。
「瑠花は」
「俺はお前と帰りたいの」
「…そういう面倒は御免なんだけどな」
私は突き放し、鞄に教科書を詰め込んだ。
「いいだろ」
「よくない」
ちっ、と玉崎は舌打ちする。こっちが舌打ちしたい気分だ。
「いいから。少しだけでいいから、付き合えよ」
強引に腕を引かれた。
私は玉崎のこういうところが好きじゃない。こいつは、全く分かっていないんだ。
教室から出て、卒業生の使っていた空き教室に連れて行かれた。私は、半ば呆れて何もいう気がしなかった。
「……」
「な、紗季」
「何よ」
「俺と付き合えよ」
はあ、と私はため息をつく。
「付き合わない」
「何で」
「あんたがバカだからよ」
バカじゃねぇし、と口を尖らせて玉崎は言う。
「バカだよ、彼女いるのに私に手を出すなんて」
「瑠花と…別れたら、付き合うのか?」
「そういう問題じゃないけど」
「じゃあいいだろ」
「だからダメだってば」
じゃあ、と玉崎は言う。
一回、俺としてみない。
嫌だ、と言おうとしたら、手で唇を塞がれた。
シー、と反対の指一本で自分の唇に当てた。
「じゃあ、少し試してみて。良かったら考えろよ」
玉崎の手が、私の制服のブラウスをまさぐる。
「いやっ…」
私が声を出すと、更に喜びの表情になる、玉崎。
「いーね、その声。そういうのが聴きたかったんだ」
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