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その時
ぷしゅー、と音がした。
「終点~終点~」
あ…
駅に着いちゃった…
私は人の雪崩に流されて電車を出る。
触られていた場所を熱く感じた。
じんじん、と熱をもって、その場所に他人の指が当たっていたことを主張した。
私はスカートを翻し、階段を昇る。
改札を出た。人混みに流れるように、呆然と歩いていた。
ふいに手を引かれ、身障者用のトイレに入れられた。
「あ…」
手を引き、私を閉じ込めたのは…
スーツ姿の、眼鏡の男…
私を触っていた男だった。
「あの…わ、わたし…」
彼は冷たく言った。
「逃がさないよ」
突然ぎゅっ…と抱きしめられた。
どくん、どくん、と
心臓が飛び出るかというほどの動悸。
「ああ…すごくいい匂いがするね」
私の髪に顔を埋める彼。低い、でも冷たい声だった。
「長い髪に眼鏡…でも外見とは違って」
彼は私の眼を見つめた。
「すごくやらしいことが好きなんだね」
かあ、と顔が赤くなる。
「ち…違います」
「いいんだよ。僕は分かってるから」
髪をかきわけ、また私の首筋にキスをした。
身体が強ばった。
「もう、声を殺さなくてもいいよ」
ふーっと、彼は耳の中に息を吐いた。
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