電車の中で

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電車の中で

毎日の通学が苦痛だ。 その訳は、普通の人なら分かるだろう。 電車の中で、人混みに押されながら、もみくちゃにされるのは誰だって嫌だ。 この時間… 電車の一時間が、とても苦痛で仕方がない。 私はふう、とため息をつきながら電車のホームに立っていた。 いつもの電車は、7時10分。 今その電車が、私の前で微かに風を舞い上げながら停まった。 短くした制服のスカートが少し風で膨らむ。 乗車口から、ぎゅうぎゅう詰めの人混みの中に紛れていくわたし。 それは、毎日のことながら異様な光景だった。 周りの人達は、皆私とは違うスーツ姿の会社員ばかり。 大人の男に囲まれるのは、あまり気持ちのいいものではない。その中で、私はあまりにも異質たからだ。 ぴったりと身体が密着する。 誰だか分からない男の下半身が、私のお尻に当たっていた。 不快だ、と思う。 でも、私にはいつも、抗う術はない。 いつも、それを我慢しているのだ… それから私は必ず目を閉じる。 不快なことを、不快でなくすために。 これは、たまたま私が女で 少女だったから起こったことだ、と… 自分に言い聞かせながら。 がたん ごとん… 電車の固く重い音と 周りのため息が、私の気分を更に重く、暗くさせる。 自分の柔らかい双丘の狭間に、硬く重い凶器が押し付けられている。 それは、電車の揺れに伴い少しずつ形を露にしていく… 『ああ…まただ』 『大きくなってる』 私の心が、怯えていながらもその硬い凶器に好奇の目を向けているのが分かる。 そして、そんな自分に嫌気がさすのだ。 女としての何か。 あがらえないなにかを、この凶器が無理に教えてくる。 私は黒縁メガネのフレームを人差し指でくい、と上げた。 途端にふーっ…と、首もとに吐息がかかった。 ぞくぞく…っと、右側の胸元がうずく。 首を傾けると、今度は反対の首に吐息が優しくかかった。 ぎゅっと、鞄を持つ指に力が入る。 『…もうすぐ』 『…くる…』 そっと、乾いた指が右の太ももに触るのが分かった。 固く細い指の、指紋がざらざらと私の脚を撫でた。
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