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あの頃僕らは
あの頃僕らは…
あれは3年前の夏、初めて二人は出会った。
そして恋に墜ちた。
二人は異父兄弟だった。
夜の街にネオンが光っていた。食事をしてから駅前のカラオケ屋で二人は過ごした。これで会うのは二回目だ。二人とも歌うのが好きで、点数を競って歌った。ポップスや演歌、愛の歌を時には悲しい歌を。三時間歌って店を出た。そしてみきおは左へさちこは右へと家路に着いたが、本当はもっと一緒にいたかった。
二人は一緒に暮らしたことがない。遠い昔みちこは幼いみきおを置いて家を出た。やむを得ない事情だった。そうしてそのまま生き別れになった。
それから40数年が経ち、ある日、みちこのもとに手紙が届いた。みきおからだった。「捜しましたお母さん…会いに行ってもいいですか?」と。
みちこはその頃さちこを拒絶していたから、さちこがみきおに会うのはそれから三年後になる。
母は娘を歪んだ愛で愛している。
母は再開した息子の愛しかたがわからない。
みきおは生い立ちが複雑だ。孤独だった。母が去って間も無く父も別の家庭を持ち家を出たから、祖母に預けられもの心つく頃には荒れていた。中学生の頃にはもう働いていたという。
さちこもまた複雑だ。みちこの新しい家庭には男の子も二人いて、兄と弟を溺愛した。父は幼い頃別の女性のもとへ行き生涯戻らなかった。さちこは条件付きの愛しかモラエナカッタ。さちこに対してはみちこは今でいう毒母なのだった。
そんな悲しい過去も僕らを引き寄せたんだと思う。
二人は仲の良い兄弟だった。電話でたくさん話した。昔話や未来の夢を語って。楽しかった。
好きだった。
けして結ばれる事のない恋だった。
苦しみ。いばらの道を歩かなければならないのか。"禁断の愛の世界にようこそ"心の中で悪魔がささやいて。そして良心が叫ぶ"永遠の決別を!"。
来るべくして時は来た。喧嘩して、わざと傷つけ合った。
もう話すことはないけれど。
二回しか会ったことはなかったけれど。
僕らは出会わなければ良かったの?
あの夏二人は輝いていた。
一瞬の煌めき。真夏の夜の線香花火のように…
今は別の誰かを愛しても。
あの頃僕らは…
あの頃僕らは幸せだった。
─END─
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