待ち伏せ

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待ち伏せ

・:*:・:・:・:*:・:・:・:*:・ 待ち伏せ ・:*:・:・:・:*:・:・:・:*:・ 仕事始めとはいえ、通常業務と何ら変わりない作業を終えて、15時半過ぎ、他のパートさん達とオフィスを出た。 通用口を出て、数人のパートさん達と駅方面へ向かうと、突然、 「カナ!」 と声を掛けられた。 聞き覚えのある声。 振り返ると、かつての交際相手、山本博臣(やまもと ひろおみ)が、立っていた。 もともと長身で細身の彼だったが、以前とは見違えるほど、げっそりと痩せてやつれて見えた。 前を開けたままのコートの隙間から見える見覚えのあるそのセーターは、昔、クリスマスに私がプレゼントした手編みの物。 「お先に失礼するわね。お疲れ様でした。」 空気を読んだ高木さんが声を発すると、他のパートさん達も、「お疲れ様でした」と去って行く。 残された私は、無視して立ち去る事も出来ず、立ち尽くしていた。 「カナ…」 かつてのようにそう私の名を呼びながら、彼は近づいて来た。 「話があるんだ。少し付き合ってくれないか?」 彼の声に我に返ると、 「私には、ないわ。」 と拒絶の意思を示した。 「カナに酷い事をしたのは、分かってる。 それでも、話を聞いて欲しいんだ。 これで終わりにするから。」 彼の切迫した表情は、やつれた体と相まって、強く拒絶するのが申し訳なくなってしまう。 「今夜は、予定があるの。少しだけよ。」 と私が言うと、 「あぁ。 ありがとう。」 と彼は微笑んだ。
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