これはある世界において現実である

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風呂は明るく、何も怖くなかった。 時々、シトラスが声をかけた。冬夜が黒いものを恐れていることを知っているのだ。 「背中を流してくれないか」 「かしこまりました」 シトラスはシャツの袖と黒スーツのパンツの裾をまくりあげ、裸足になって風呂場に入ってきた。 タオルでゴシゴシと背中を流すシトラスに聞いてみた。 「お前らは俺を監視してるのか?」 「それについては私は何も知りません。私はただ指令を受けてあなたの家に訪問しているだけですので」 冬夜は振り返って背中を流すシトラスの腕を掴んで風呂場のタイル壁に押し付けた。 シトラスは少し目を丸くしたが、そのまま大人しく押し付けられている。 こんなところまで機械的か。 「冬夜様、おやめください。服が濡れてしまうと困るので」 「もしやめなかったらどうする?ここでお前を犯したら。監視しているなら、管理局の連中が来て俺を拘束するのか?」 しばし沈黙があった。シトラスは無表情に冬夜を見ていた。 「冬夜様が性的なサービスをお求めでしたら、応えるように指令を受けています。あなたは何も遠慮をすることはありません。ただ、ここでは服が濡れてしまうので、部屋へ参りましょう」 あまりにも無機質にシトラスが言うので、冬夜は腕を乱暴に離すと背中を向けた。 「もういい。後はいいから、帰ってくれ」 「かしこまりました。ではテーブルに、シャルドネからのメッセージと、ループから回復後の依頼について置いておきます。ゆっくりお休みください。失礼します」 シトラスはそっと風呂場を出ると、身なりを整えて部屋を出て行った。 シチューの香りとシャルドネのメッセージ、そして静寂が残された。
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