これはある世界において現実である

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シトラスが帰ってから風呂に浸かっている時、 どこか遠くへ、大事な人が去っていく光景が脳裏に浮かんだ。 なぜそんなことが浮かんだのだろう? 記憶にないことだ。 しかし冬夜はその光景の悲しさ、見送る自分の切なさ寂しさを痛いほど感じた。 あるいは本当にあったことなのだろうか?しかしそんなことは忘れてしまった。 風呂から出ると、テーブルにシトラスの残していったメモが置かれていた。 『冬夜 ループを抜けるには最低でも2週間は必要よ。その間定期的に人をよこすから、何もせずに過ごしなさい。 モニターの電源は入れてはダメよ。ループを抜けてからモニターをつけた時、新しい仕事が分かるわ。それと、毎日私が電話を入れるから出てね。愛してるわ、マイスイート』 シャルドネ、と最後に署名があった。 何がマイスイートだ。愛してるならここへ来てくれよ。 冬夜はメモを捨てようとして、手を止め、デスクの引き出しの中にしまった。 シャルドネのことばかり考えている。 嘘つきの調子のいい女なのに。 顔さえ分からないのに。 冬夜はシャルドネの声をどこかで聞いたことがあるような気がした。 だけどそんな訳はない。あの女に会ったことなんてないのだから。 そういえばこの街へはどうやって来たんだっけ。 色んなことを忘れてしまった。 どこかで、もしかしたらシャルドネに似た女の声を聞いたのかもな。 冬夜は急に疲れてしまって、ベッドに倒れこんだ。そのまま泥のように眠った。
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