これはある世界において現実である

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冬夜(とうや)は薄暗い部屋に置かれたデスクの上で、一心不乱にキーボードを叩いていた。 部屋はモニターの明かりだけ。 散らかった部屋にはペットボトルや空き缶や食べかけのカップ麺、菓子パンのゴミなどがそこら中に散らばっている。 一息ついて、冬夜は伸びをすると、缶コーヒーに手を伸ばした。 冷え切った缶が冷たい。 情報収集屋も楽じゃねえよ、と目頭を押さえた。 冬夜は支給されたスマートフォンに手を伸ばした。 「俺だ。例の件、そろそろ片がつきそうだ。報酬ははずんでもらうからな。いつもあぶねえ橋渡らせすぎなんだよ。こっちの身にもなってくれ。お陰で腹は減ったし寝不足で寿命が縮んだよ」 『いつも感謝してる。もちろん報酬は倍出すから。縮んだ分の埋め合わせは、アタシが後でたっぷりしてあげるから。じゃね』 何が後でたっぷりだよ。来たことなんてねぇくせに。 冬夜はゴミだらけの床をかき分けてベッドに寝転んだ。 俺は狂えもせず、こんな風に少しづつ死んでいくんだろうな。 まどろむ頭の中で、冬夜は思った。
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