これはある世界において現実である

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シャルドネ。 いけすかない女だ。 冬夜はいつも電話で仕事を請け負うばかりで、一度も会ったことがない。 飄々としたつかみどころのない女で、結局いつも危ない仕事を請け負わされる。 埋め合わせするだの、慰めてやるだの、いつも口ばかりだ。 だけど、冬夜はこの女が気になっていた。 「検査」に来る女はいつも機械的だが、電話口のシャルドネだけは人間味が感じられたからかもしれない。 というよりこの世界の人間は大体が機械的で面白みのない連中ばかりだった。 冬夜はシャルドネと会って話がしてみたかった。 それは冬夜自身が思っているよりもずっと強い願いだった。 人間味あふれたものを求める渇望だった。 機械的な人間、眠ると訪れる悪夢。 死ぬ、という恐ろしい声。 冬夜は片付いた部屋の隅にいる黒い塊に怯えた。 モニターの前に座って情報を集めている時だけは、恐怖を忘れることが出来た。
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