これはある世界において現実である

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自分がウイルスに感染しないと気づいたのは、ここへ来てしばらく経ってからだった。 この街には、特殊な薬物を摂取しなければほぼ確実に感染するウイルスがある。 冬夜はそれを知っていて、薬を飲まなかった。 なのにいつまで経っても感染する気配がない。 やがてそれは管理局の知ることとなった。 管理局の人間は冬夜の身体を検査し、極めて耐性が高いと判断した。 同時に情報収集屋として冬夜を雇ったのだった。 情報収集屋には、耐性の高い人間しかなれない。理由はよく分からない。 冬夜は一仕事終えるたびに身体を検査された。 俺は狂えもしないし死ねもしないのか。 絶望。 いっそ狂いたい。狂いたい。狂いたい。 死のうとするとタイミングよく管理官から連絡が来る。 家にも来る。 俺は監視されているのか? こんなことが起きているのにまだ狂えないなんてどうかしてる。 と思いながら、その思考の矛盾に自笑した。 外の空はいつも黒い雲が覆っている。 太陽を見たのは一体いつのことだったろう?
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