これはある世界において現実である

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季節は日々真冬に近づいていく。 冬夜の狭い部屋には小さなハロゲンヒーターがひとつ。部屋はまるで外のような寒さだ。 新しい暖房機を買えばいいのだけれど、 買うのが煩わしい。 管理局の女どもに頼めばいいけれど、 なんだかそれも煩わしい。 いっそ凍死すればいいか、と思いながら毛布にくるまり仕事をした。 死ねばいいと思いつつ毛布を手放せないことがおかしかった。 俺は死にたいのか生きたいのかどっちだ。 冬夜は一睡もしないままキーボードを叩き続け、風呂にも入らず、そのまま何日も過ぎた。 電話がかかってきたのは幾日か過ぎたあたりだった。 『ハロー。私よ。あなた最近無茶してない?一度もコールが無かったから心配してたのよ』 シャルドネの声がまるでストーブのように温かく感じた。 「無茶?わからないな。この案件が終わらないんだ。なんだかずっと同じことを繰り返しているようで、気づくと元の場所に戻っているんだ。これはなんなんだろう?」 そして俺は何を調べているのだろう? 『冬夜、あなたはループに入ってしまったようね。心配いらないわ。案件は一度クローズして、今すぐモニターを切りなさい。シトラスを向かわせるから、何もしないでそこで待っているのよ』 「シャルドネ、お前は来ないのか?」 来てくれないの? 『私は役職上、ここから出られない規則なの。』 「いつも慰めるなんて言うのに。勝手な女」 無意識に、まるで子どもが拗ねるような口調で冬夜は言った。 温かいシャルドネの声をずっと聞いていたかった。 『ごめんなさい冬夜。あなたには感謝してるのよ。だから許してね。』 電話は切れた。 冬夜はシャルドネの言った通りモニターの電源を切り、真っ暗になった部屋の中で毛布にくるまってシトラスを待った。 しばらくすると玄関のチャイムが鳴った。
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