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では、私の「×××」についてお話ししましょう。
私についている「×××」とは私が生まれてからずっと、共に生きています。
一度たりとも離れたことはありません。
初めは霧のようだった「×××」は、
今となっては人の影のようになってしまいました。
闇より深い漆黒の、小学生ぐらいの少女の影です。
顔も黒で染まっているので、表情すら分かりません。
ただ人間のような凹凸をした「×××」は、いつも私の後ろについています。
私は「×××」のことが嫌いです。
少し前から、「×××」は私に触れてくるようになりました。
その度に私は、毛虫が這うような不快感や、
胸を締めつけられるような不安感に襲われました。
酷いときは、動けずにただ涙を流す日もありました。
「×××」のその底無しの黒色に、私も染まってゆきました。
何も見えない暗闇。何もない虚無感。
苦しむ私を「×××」は、美味しそうに見つめるのです。
まるでこれから食する魚の腸を取り除いていくかのように、
「×××」は私から希望や幸せを抉り取ってゆきました。
私は何度「×××」から逃げることを試みたことでしょう。
逃げ切ったと安堵していると、いつの間にかまた後ろについているのです。
私が逃げると、「×××」は漆黒の液体を、
目と思われる所から音もなくこぼします。
その液体に触れると、まるで水面に黒いインクが一滴落ちるように、
私の心はまた漆黒へと近づくのです。
そして毎度逃げなければ良かったと後悔し、
「×××」のことだけでなく、己のことも嫌いになってゆきました。
「×××」は夜が訪れると強くなりました。
「×××」は私の背中をさするのです。
すると私は「×××」に促されるように、口から黒い言葉を吐き出すのです。
その度に私は、周りの人との空気を濁すのです。
部屋の全ての電気をつけても、その人工の太陽は、
「×××」という厚い黒雲で覆われてしまうのです。
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