「×××」

2/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
では、私の「×××」についてお話ししましょう。 私についている「×××」とは私が生まれてからずっと、共に生きています。 一度たりとも離れたことはありません。 初めは霧のようだった「×××」は、 今となっては人の影のようになってしまいました。 闇より深い漆黒の、小学生ぐらいの少女の影です。 顔も黒で染まっているので、表情すら分かりません。 ただ人間のような凹凸をした「×××」は、いつも私の後ろについています。 私は「×××」のことが嫌いです。 少し前から、「×××」は私に触れてくるようになりました。 その度に私は、毛虫が這うような不快感や、 胸を締めつけられるような不安感に襲われました。 酷いときは、動けずにただ涙を流す日もありました。 「×××」のその底無しの黒色に、私も染まってゆきました。 何も見えない暗闇。何もない虚無感。 苦しむ私を「×××」は、美味しそうに見つめるのです。 まるでこれから食する魚の腸を取り除いていくかのように、 「×××」は私から希望や幸せを抉り取ってゆきました。 私は何度「×××」から逃げることを試みたことでしょう。 逃げ切ったと安堵していると、いつの間にかまた後ろについているのです。 私が逃げると、「×××」は漆黒の液体を、 目と思われる所から音もなくこぼします。 その液体に触れると、まるで水面に黒いインクが一滴落ちるように、 私の心はまた漆黒へと近づくのです。 そして毎度逃げなければ良かったと後悔し、 「×××」のことだけでなく、己のことも嫌いになってゆきました。 「×××」は夜が訪れると強くなりました。 「×××」は私の背中をさするのです。 すると私は「×××」に促されるように、口から黒い言葉を吐き出すのです。 その度に私は、周りの人との空気を濁すのです。 部屋の全ての電気をつけても、その人工の太陽は、 「×××」という厚い黒雲で覆われてしまうのです。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!