1人が本棚に入れています
本棚に追加
「いい天気だね。」
兄は火葬場前の階段に腰掛け空を見ている。
オレ達の気分とは裏腹の雲一つのない、快晴。
燦燦と輝く太陽がオレ達を照らし、夏の陽に首筋をじりじりと焼かれる。
「ドラマとかだと雨とか降ってたりするのが定石なのになあ。」
「雰囲気大事にしろってか。」
喪服のネクタイを緩めながら、兄はそう呟く。
こんな暑い夏に死ななくてもよかったのにね、ホント。
兄は尻ポケットから潰れた煙草を取り出すと、それに火をつけようとした。
「煙草、吸ってんだ。」
「……たまに。スッキリするんだよ。」
家を出て一人暮らしをするようになった兄は、家に寄り付かなくなった。
家に全く帰らなくなった兄を、父は親不孝者と呼んでいたっけ。
「知らなかった。」
「……だろうな。」
兄は不機嫌そうに煙草を吹かしていた。
煙草の煙が真っすぐに立ち昇る。
「……兄ちゃん。」
「ああ?」
「見てよ、熱風のせいかな。煙突が陽炎みたいになってる。」
火葬場の煙突が、ゆらゆらとゆらめき立つのが見えた。
中で燃やされている遺体の熱によって、陽炎をつくっているのだろう。
歪み、ゆらゆらとゆれている煙突の存在は不確かな印象を与えてくる。
しかし兄はオレの言葉に反応もせず、苦々し気な顔で煙草を地面に落とした。
兄は煙草を革靴で踏みにじると、なにもいわず黙ってしまった。
最初のコメントを投稿しよう!