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「ちょっと疑問に思ってることあるんだけどさ、聞いてくれる?」
「なんだよ。」
ゆらめく煙突を見ながらオレは兄に話しかける。
世間話をするかのように、いつかの馬鹿話のように。
「日本人ってさ、遺体を大事にするのになんで火葬するのかなって。」
「いきなりなにいってんだ。」
「黙って聞いて。」
オレが語調強く遮ると、兄はまた黙った。
その顔を見て、オレはまた話し出す。
「災害とか事故とかでさ、バラバラになった遺体を集めるの日本人の特徴なんだって。足の一本、指の一本まで探すらしいよ。」
「……そりゃそうだろ。」
兄がぽつりと言う。
その顔はとても苛立だしげだった。
「人を精神と肉体で分けることができないっていうのかな?でもさ、不思議じゃない?そんなに執着するのに、最後は焼いちゃうんだよ。普通大切な人が灰になっちゃったら嫌じゃない?」
オレは兄の前に立つと、座っている兄を上から覗き込んだ。
兄のほうが身長は高いから、兄を見下げるのは新鮮だ。
「兄ちゃんはどう?」
「…………なにがいいたい?」
「イヤだから火葬場から逃げてきたんでしょ?」
兄はオレを睨みつけて押し黙る。図星のようだ。
火葬場の中から俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
日向、日向とオレを探しているようだ。
「でもさ、オレは焼いてもらったほうが嬉しいんだよね。」
「……なんでだよ。」
兄は苦し気に言葉を押し出した。
火葬場の中の声がどんどん大きくなっていく。
母と父の泣き声が、頭の芯に突き通る。
「兄ちゃんと血の繋がった肉体が燃えて灰になっちゃえば、兄ちゃんのこと、好きっていえるじゃん。」
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