高飛車の女

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高飛車の女

夕方の雑踏に交ざり合う人の波。 裏道に押し問答をする、若い男女の姿があった。 「あなたが、私のヒールの踵を壊したの。だから今すぐ弁償するべきよ。お金はらって。っていうか、このヒールと同じ靴、買ってきて。」 女性は高飛車な態度で、目の前にいる男性を叱り飛ばす。 「あんたさ、ただ単に信号待ちしていた俺の足を、そのヒールの踵で踏みつけた。結果、俺の靴の方ではなくて、そのヒールの方が壊れた。」 男性の側も負けずと言い返す。 「いいから弁償しなさいよ。これは高かったの。そして、私が一番大事にしていた靴なの。」 「え?その恰好で?」 男性は、女性の薄手のジーンズと、頭からかぶった灰色のパーカーを舐めまわすように見回す。口には真っ赤なルージュがひかれている。瞼には流行りのマスカラがあしらわれていた。もう少し明るい所で姿を見る事が出来れば、化粧映えのする美人だったに違いない。しかし、女性は怒り心頭で不照り顔。折角の美人が台無しである。 「なに?この格好の何がおかしいの?近所のコンビニに来ただけ。」 「このあたり、コンビニあったっけ?」 「あるよ。」 「たかがコンビニに行くくらいで、一番のお気に入りの靴履いて出るの?」     
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