【事の始まり】

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 もっともな意見だ、私達が今まさに考えていたことだ。  もっと早くその情報をみんなに伝えていれば、何かしらの対策はできたかもしれないのに。  その質問に、そのお偉いさんは表情を一変させてこう言った。 『言ったところでなにが変わる?』――と。  その表情は悲しんでいるのか、それとも怒っているのか、笑っているのか、画面越しに見ている私達では到底理解できない表情だった。  でも私はその表情を“怒り”だと認識した。  何故ならば、その情報をもっと早く全世界に伝えた、としても。  地球という巨大な住処を自分達の力で動かして隕石から避ける、などという手段はできない。そんなものは映画の中での設定だ、現実ではそんなのできはしない。  だから私達にはどうすることもできない――なるほど、お偉いさんの言う通りだ。  なにも変わらないその事実を訊いても理解できず、呑気なその思考に怒ったのだろう。  その言葉を言ったお偉いさんは頭を下げて、そのまま画面から消えて行った。  これ以上話すことなどない――そう言わんばかりに。
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