【事の始まり】

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 なにもできない……か。  しかし、何故今このタイミングでその事実を伝えたのか、私はそれが気になった。  だがすぐにその答えは導き出された。  その理由は二つだと、私は考える。  一つ――『もう助からない』ということを民衆に伝える、というのはとても勇気がいる行為だ。  その勇気がいる行為を望んで手を挙げて『私がやります!』などという馬鹿はいない。今更格好つけたって、どうにもならないのだから。  だからあの人は、自身が就いた、就いてしまった役職の責任を全うすべく、覚悟を決めてようやく登場したのだと。  一つ――『もう助からない』、という言葉を聞けば、民衆は一体どうなるか。答えは簡単だ。  世界中の人々が暴走する――これしかない。  つまりどういうことかと言うと。  この世界の終焉まで、欲望にその身を任せ続ける――と言うことだ。  もう終わる世界で“法律”という盾は意味を成さない。  だから今このタイミングで言ったのだ。  あと……『三日』だと。
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