タイムカプセル

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 三歳のころ、オレはオヤジに連れられて一本の梅の木の下にタイムカプセルを埋めた。オレは後日オヤジに教えられてそのことを知った。しかしその後は高校生ともなれば遊びに勉学にといそがしく、そんなことはすっかり忘れ、いつしか大人になってしまった。今、定年を迎え、ふとそのタイムカプセルを埋めた記憶がよみがえったのだ。アメリカの大学に留学して以来アメリカで一人暮らしを楽しみ、果樹園を持ち、投資で成功したオレは第二の人生を考えていた。  ふるさとは日本は京都だけれど、いまはもうむかしの面影はないだろう。GDP神話を生かせず翻弄され、極東の小さな島国になった日本。知性のない怪物が歩き回ったような都市化の波はまるで当時のすべてをのみこんでいるだろう。子供時代の光景はまるで過去のはざまに消え失せているにちがいない。  オレはいまはやりのタイムマシンに乗ってむかしの京都に行って、タイムカプセルの中身を確認することにした。 「あった、あった!」とオレは童心にかえってはしゃいだ。「ここだ、ここだ」  たしかにこの梅の木だ。  根元を掘っていくと、 「あった、あった」  厳重にふたをした円筒型のガラスビンが出てきた。牛乳ビンだ。  なつかしい形をしたビンの中から取り出した紙には、 「人生はバラ色」と書いてあった。
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