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寒い日の朝、僕は「写真を撮りたい」と言う彼女に付き合って、湖の(ほとり)に来ていた。 「ねぇ」 僕の呼びかけに、彼女はファインダーを覗いたまま「ん?」と返事をした。 「何でよりにもよってこんな寒い日の朝に写真を撮るの?」 それに対して、彼女はファインダーを覗いたまま答えた。 「決まってるじゃない。寒い日の朝が一番空気が綺麗だから、綺麗に写真が撮れるからよ」 「へー、そうなんだ」 僕は彼女と同じ景色を見てみたくなって、彼女の隣に立ってみた。 「ねぇ」 僕の呼びかけに、彼女はまたファインダーを覗いたまま「ん?」と返事をした。 「どうしてそんなに写真が好きなの?」 それに対して、彼女はまたファインダーを覗いたまま答えた。 「決まってるじゃない。その瞬間にしか見れない景色をいつまでも残しておけるからよ」 「そっかー」 僕はポッケに手を突っ込んで、空を見上げた。 「…何で雲ってあんなにゆっくり動いているのかなぁ…」 僕がそう呟くと、彼女はようやくファインダーから目を離し、僕を見て答えた。 「決まってるじゃない。私たちが写真を撮ったり、絵を描いたりしやすいように、ああやってゆっくり動いてくれてるのよ」 「そっか、気を遣ってくれてるんだね」 「そうよ。私たちも雲を見習わなくちゃね」 そう言って、彼女はまたファインダーを覗きこんだ。
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