第9章 難関のコース

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第9章 難関のコース

鋭角(えいかく)というコースがある。 これは、普通二種、大型二種免許を取得する者にとっては、鬼門と呼ぶにふさわしい教習所内の難関のコースである。 暫く教習所内のコースを走っていると、春川教官が口を開いた。 「今田さん、運転を代わりましょう」 「はい…」 私は返事をして教習車をコース脇に停めた。 春川教官は颯爽と助手席を降り運転席に乗り込む。 「これから、鋭角というコースに入ります」 「えいかく…」 これから何が始まるのか…私は、春川教官の運転を、その一挙手一投足を固唾を飲んで見守った。 ゴクリ… 唾を飲み込む音が春川教官に聞こえたのか、 その薄い唇が開いた。 「今田さん、鋭角は卒業検定に含まれます」 もう福島弁も気にならない。 鋭角コースとは、簡単に言えばV字をした狭い道である。 道幅は車体より少し広く、普通車免許を取得した方は分かると思うが、S字やクランクがV字になった狭いコースを3回までの切り返しで、無事、教習車をコースから出さねばならない。切り返しの時に、タイヤがどの位置にあるのか馴れないと分からない。タイヤの位置が少しでも逸れると脱輪してしまう。ミラーに見える位置を把握し、タイヤの位置を感覚で覚えるしかないのである。 私を乗せた教習車が鋭角に入る。 「いいですか今田さん。まず右側から入るコースは車体を車線に沿って進ませ、この位置でまず停ります」 「はいっ」 「この位置ですよ。その次にハンドルを目いっぱい左に切り、そのまま前に進むのです。いいですね」 「はい…」 「あまり前に出すぎると脱輪します。はいっ!この位置です。この位置で停めてギアをバックに入れて安全確認っ!」 「はぁ…」 「車体を後退させる時も後輪に要注意っ!はい、この位置で停めハンドルを目いっぱい切り前に出ます」 「おおっ!」 春川教官の眼鏡がキラリと光る。 「2回です。やりようによっては2回で鋭角を出ることが出来るのです。やってごらんなさい」 「はい…」 私は自信なく返事をし、助手席を降り運転席に座った。 鋭角コースを何回か練習し、かろうじて3回の切り返しで車体を出すことが出来たが、2時間の技能教習終了後、 (あんな鋭角のような道が日本にあるのかなぁ…) と不思議に思った。
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