第18章 塩田検定官

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第18章 塩田検定官

10月25日のこの日の白河市は澄んだ空気に満ちており、降り注ぐ日差しは晩秋を迎えようとしている東北地方とは思えぬほど暖かかった。 受験生は計4人。 大型自動車1名に、大型自動車二種1名、大型自動車とけん引が1名、それと普通自動車二種の私である。 その受験生たちの顔を見ていると、短い期間ではあったが、 『共に学び同じ釜の飯を食った仲間』 という意識が自然と芽生えてくる。 この合宿教習所に入る前は、全く違う人生を歩んできた面々。 互いに何の接点もなく、今日の検定に合格しここを卒業したら、おそらくはもう二度と会うことはないだろう。 しかし、南湖自動車学校に入学し、共に卒業に向かい日々奮闘した経験は、生涯の思い出になり、また財産になるだろう。 そこにはまさに、 『一期一会』 という言葉が当てはまるのではないか。 私にはそう思えてならない。 検定日当日は、今までにないくらいの緊張感に見舞われた。 不合格であれば、さらに1時間の技能教習を受けなければ再試験を受験することは出来ない。 (これだけは絶対に落とせない) その気持ちが、なおさら緊張感に拍車をかけ吐き気を催すほどだった。 ふた組に分かれた受験生は、先に受験する教習車に同乗する。 私の組の検定官は塩田教官。 私はこの塩田教官に、教習が始まる前に他の教習生と話に夢中になり、3回ほど 「今田さん、教習が始まりますよ」 と、喫煙所まで迎えにこられたことがあった。 さすがに3回目ともなると、 「今田さん」 と名前を呼ぶ声が若干怒りに満ち、眼鏡の奥の細い眼差しは、開いているのか開いていないのか分からないほど鋭く感じた。 その塩田教官が検定官であることが、さらなる緊張感に繋がった。 午前10時、卒業検定が始まった。
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