第19章 素晴らしき達成感

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道路の向こう側には横断歩道を渡ろうとしているひとりのお婆ちゃんの姿。 カチャ、カチャ、カチャ。 ウインカーを出したままお婆ちゃんが横断歩道を渡り終えるのを待つ。 歩行者の保護は、プロのドライバーとして当然の役割であり、最大の責務である。 カチャ、カチャ、カチャ。 お婆ちゃんが歩き始める。 カチャ、カチャ、カチャ。 お婆ちゃんが、横断歩道を3分の1ほど渡った時、不意に後ろを振り返ってそのまま立ち止まってしまった。 (いったい、何を見ているんだ?) 汗が出てきた。 カチャ、カチャ、カチャ。 ウインカーの音だけが聞こえてくる。 当然、塩田検定官は言葉を発しない。 私は、辛抱強くお婆ちゃんが横断歩道を渡り終えるのを待ち続けた。 バックミラーを見ると数台の車が列をなしている。畑道なので車線はひとつしかない。私が右折しない限り、後続車も永遠と前に進めない。 次第に焦りが出始めた。 (お婆ちゃん、頼むから早く渡ってくれ!) 心の中で、二種免許取得を目指しているプロのドライバーらしからぬもう一人の自分が毒づき始める。 そのままお婆ちゃんは横断歩道を渡らずに引き返したところで信号が再び赤に変わった。 またお婆ちゃんが戻ってこないことを心の中で祈り、信号が青に変わるのを待ったが、その僅かな時間が、何時間もの長い時間に感じられた。 交差点を右折し、県道を北上し教習所に向かってひた走る。 「はい、お疲れ様でした。えーっ、あの交差点では、あのまま歩行者の動向を見守るのが正解です」 「はいっ!ありがとうございました」 教習車を降りた瞬間、どっと疲れが出た。 待合室に戻った。 直ぐにも合格発表が電光掲示板にて発表されるとのこと。 「では、先ほど実施した卒業検定の合格者を発表します。合格された受験生は、そのままカウンターの方にお越しください」 アナウンスと共に辺りがざわつき始めた。 ピカッ! 『1』 ピカッ! 『2』 順に合格者の番号が電光掲示板に表示されてゆく。 ピカッ! 『3』 私の受験番号は『4』である。 (次だ!ペカるか!) 心の中で叫んだ!! ペカッ! 『4』 「よっしゃっ!ペカッた!」 思わず声が出た。 合格した… 二種免許の卒業検定に合格した…
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