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「ねぇ、たかちゃん、ちょっとまってよぉ」
髪を2つに縛ったいわゆるお下げ髪の女の子が、
息切れしながら駆け足で男の子をおいかけていた。
「お前、もうついてくんなよ」
小学生くらいだろうか。
サッカーボールをケースごと蹴り飛ばしながら、ぶっきらぼうに後ろも振り返らずに男の子は答えた。
日も暮れかかり、可愛らしい2人の追いかけっこは、その影を長く伸ばし、それはまるでちょっとした映画のワンシーンのようだった。
夕焼けに目を細めてその姿を微笑ましく眺めていた愛深は、思わずぷっと吹き出した。
「たかちゃん、まってよぉ、だって...あはは...あははは」
何がツボに入ったのか、吹き出した笑いから、もはや大笑いに発展していた。
「お前、ばか?」
ポケットに片手を突っ込んだまま、ベンチにだらしなく腰掛けてタバコをふかしていたその男は、愛深を横目で一瞥し、深いため息をついた。
「ふ...ふふふふふ...あはははは」
その一言がまたツボに入った愛深は、いったん収まりかけていた笑いが復活し、むしろさっきよりも意味深に大笑いをはじめた。
ちっと舌打ちし、男はひとりごちた。
「なんなんだよ、まったく」
そんな男の様子には全くおかまいなしで、愛深はさらに笑い続ける。
「だって、だってー!まってよぉ、たかちゃん、まってよぉって、ほら...あはは」
「あー、はいはい、もうわかったから。今日はどうするわけ?」
男は、「あー、だるいわー」と声にしないはずのつぶやきを声に出しながら、また深いため息を漏らすのだった。
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