はじまりの歌

2/3
前へ
/3ページ
次へ
「ねぇ、たかちゃん、ちょっとまってよぉ」 髪を2つに縛ったいわゆるお下げ髪の女の子が、 息切れしながら駆け足で男の子をおいかけていた。 「お前、もうついてくんなよ」 小学生くらいだろうか。 サッカーボールをケースごと蹴り飛ばしながら、ぶっきらぼうに後ろも振り返らずに男の子は答えた。 日も暮れかかり、可愛らしい2人の追いかけっこは、その影を長く伸ばし、それはまるでちょっとした映画のワンシーンのようだった。 夕焼けに目を細めてその姿を微笑ましく眺めていた愛深は、思わずぷっと吹き出した。 「たかちゃん、まってよぉ、だって...あはは...あははは」 何がツボに入ったのか、吹き出した笑いから、もはや大笑いに発展していた。 「お前、ばか?」 ポケットに片手を突っ込んだまま、ベンチにだらしなく腰掛けてタバコをふかしていたその男は、愛深を横目で一瞥し、深いため息をついた。 「ふ...ふふふふふ...あはははは」 その一言がまたツボに入った愛深は、いったん収まりかけていた笑いが復活し、むしろさっきよりも意味深に大笑いをはじめた。 ちっと舌打ちし、男はひとりごちた。 「なんなんだよ、まったく」 そんな男の様子には全くおかまいなしで、愛深はさらに笑い続ける。 「だって、だってー!まってよぉ、たかちゃん、まってよぉって、ほら...あはは」 「あー、はいはい、もうわかったから。今日はどうするわけ?」 男は、「あー、だるいわー」と声にしないはずのつぶやきを声に出しながら、また深いため息を漏らすのだった。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加