君の悲しみを僕の左手に

８ めでたく離婚は成立です

けれども、末っ子次男の割に可愛がられない、と思い込んでいた毅には、最も面白くないことだった。

皆が知るような、玩具メーカーに勤めている妻。
彼だって名の知れた飲食チェーンで働いているものの、『あのおもちゃを作ってる会社に勤めている』と妻ばかりが話題に上がる。
会社の名前など知らないような姪と甥までもが、「このおもちゃは旭ちゃんが発明したの」と言って回るのだから、面白いはずがない。

収入などは流石に知らないだろうと思っていたが、喧嘩した時に『どうせ俺はお前より年上なのに、収入が少ない』とまくし立てたことがある。
インターネットで旭の会社の大まかな年収を調べたようで、それが私の収入とは限らない、と言う話に耳を傾けることはなかった。

思えば、あれからだ。
毅が、子作りを拒否するようになったのは。