4人が本棚に入れています
本棚に追加
押しつけられた彼の冷たい唇の感触と。
いつの間にグローブを脱ぎ捨てたのか、わたしの氷のような頬に、むき出しになったばかりの彼の手の温もりが伝わってくる。
長い長いキスを交わした後、お互いの口から出る吐息が絡み合うように混ざりあって、やはり余韻を残しながら消えていく。
その後をひく頼りなげで儚げな感じが、今の自分と重なって、わたしは天を仰ぎながら嗚咽した。
彼はわたしの涙を愛おしそうな手つきで拭うと、いつものゆったりとした低い声で囁いた。
「……今日の気温、マイナス4度だってさ。知ってる?冷たい場所でするキスって、永遠に記憶に残るんだって……」
彼は狡い悪魔だ。
せっかく想いを断ち切ろうとしているのに、こうしてなに食わぬ顔で、わたしの心を緩やかに縛りつけて逃がそうとしないのだから。
「だったら……わたしはあなたのこと、永遠に忘れられないってことじゃない」
わたしは十字架を背負いながら、再び出口の見えない迷宮へと引きずりこまれる。
「そうだよ。だから、したんだ……」
彼がわたしにかけた-4℃の魔法。
それはきっと、切ないほろ苦さととろけるような甘さが、残酷なくらいに丁寧に織り込まれたものだ。
ーーENDーー
最初のコメントを投稿しよう!