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もうこの恋に終わりを告げよう。
そう思ったから、最後にあなたを想い出のこの場所へと誘った。
カメラを教えてくれたあなたに、初めて好きだと告げられた雪の降る季節のこの場所で。
誰かを傷つけるこの恋を終わらせようーーそう思った。
あなたは、そんな風にわたしが決意していることなど気づかない様子で、目の前に広がる銀世界にシャッターを押し続ける。
初めてモデルの女の子達をひたすら撮り続けるあなたの姿を見た時、妬けた。
彼の意識を、つかの間でも独占する他の女の子達に。
そして、その間ずっと彼の網膜を支配し続けているカメラにも。
「ヒロさん。後ろ振り向かないで聞いて?」
見慣れたカーキ色のコートの後ろ姿に声をかける。有名なアウトドアブランドのもの。誕生日にわたしがプレゼントしたものだ。
「んーー?」
彼はわたしの言いつけ通り、振り向かずにシャッターを押し続ける。
広い背中。この背中に何度触れたことだろう。
触れると柔らかい少しクセっ毛の髪。
服の上からでは分からない、引き締まった身体。
その彼を構成する何気ない1つ1つが、愛しい。
雪が落ちてくる。冷たい。寒い。
目の奥が、熱い。
どんな風に言葉を告げて別れるべきか考えて、用意していた手袋と帽子をすっかり忘れてここまで来た。
冷静でなんていられない。
でも、冷静にならなければ。
「……別れたいの。他に好きな人が出来たから。結婚出来る独身の人。だから2人きりで会うのは……今日で終わり」
なんて嫌みな女なんだろうと思う。
でも、お互いの為にもはっきり言わなければならない。
我ながら情けなくて笑えるくらい、どうしようもなく声が震えてる。
平静を装ってみようとしてみたけど、やっぱりムリ。
みっともないこと、この上ない。
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